らと往来にさまよい出たに過ぎなかった。
 ところがその最中《さなか》にも、その私の空っぽのあたまを決定的に支配し指導しつつ、絶えず重大な暗示を与え続けていた、神秘的なあるもの[#「あるもの」に傍点]があった。そのあるもの[#「あるもの」に傍点]の洞察力は透徹そのものであった。そのあるもの[#「あるもの」に傍点]の記憶は正確そのものであった。そのあるもの[#「あるもの」に傍点]の暗示は霊妙そのものであった。そのあるもの[#「あるもの」に傍点]……すなわち私の第六感はがんがらがんのふらふら状態に陥っている私の全部を支配して、いつの間にか二年|前《ぜん》に志村氏が変死したステーション・ホテルの前に行かせた。それから二年|前《ぜん》に私が履《ふ》んで来た通りの道筋を、知らず識《し》らずの中《うち》に間違いなく繰り返して辿らせて、カフェー・ユートピアまで連れて来て、その二年|前《ぜん》にたった一度しか腰をかけた事のない窓際の椅子にちゃんと腰をかけさせてその上に……志村浩太郎氏が、その死の数時間|前《ぜん》に誂《あつら》えた通りの四種の料理を、無意識の裡に註文さした。
 ……お前はもうじきに死刑の
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