…それは初耳だ。そんな薬が出来たことは知らなかった……しかし、それは多分馬酔木の葉を煎じ詰めただけの粗悪品で動植物の駆虫用に製造したものと思うがね。私のはそれをもっともっと精製したもので、薄青い結晶になっている。それを錠剤にして馬に服《の》ませると、今云ったような恐ろしい中毒を起すが、反対に人間の重病患者に内服させると、人蔘《にんじん》と同じような効果をあらわすので、私は内職に製造して薬屋に売らせている。しかし材料が余計にないので、百姓が高価《たか》い事を云って困っているのだが……」
「亜弗利加《アフリカ》には馬酔木の大平原があるそうです」
「……ふ――む……君のお話の通りだと、原産地から直接にC・Pを取り寄せてもいい。精製するのは何でもないから……。いい事を聞かせて下すって有り難う」
「……私はその貴方の御本を読みましたから、いろんな事を考えるようになりました」
「……どんな事を……」
「すべての草や、木や、土や、生き物の中には、まだ沢山の秘密が隠れているだろうと……」
「……フーム……たとえば……」
「例えば何故人は毒薬を飲むと死ぬのだろう。その人の身体《からだ》を犯されると何故そ
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