の人の生命《いのち》までいけなくなるのだろう。生命と身体とは別か一緒か……」
「ハハハハハハ。それは科学の問題ではない。哲学か、心霊学者の仕事だ。君は余りに空想に走り過ぎている」
「けれども若しこの事がハッキリとわかったら……毒薬も電気も何も使わずに、生命《いのち》だけ取ってしまう工夫が出来たら、身体《からだ》にちっとも傷が付きませんから、絶対に見つからない人殺しが出来ると思います」
「……………」
 私はこの少年の想像力の強いのに驚いた。到底頭の干涸《ひか》らびた私なぞの及ぶところでない。十六や七の少年とは無論思えぬ。しかしその想像し得た事柄は、如何《いか》にも好奇心の強い、少年時代に相応した事柄ではある。
「成る程。それは一応|尤《もっと》もですね。しかし現代の科学はまだそこまで進歩していないのです。催眠術なぞいうものもありますが、あれは一種の神経作用を応用したもので、まだ根本的の説明が附いておりませぬ。この後、精神生理学というようなものでも発達したら、そんな理窟がわかるかも知れませぬが。とにかく僕の実験室には、そんな研究の材料も機械も何もありませんよ。……精神的に人を毒殺する……
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