でしまった後《あと》に、それが秘密にしてある事が判明《わか》りましたので焼き棄ててしまいました」
「秘密とは書物がですか」
「いいえ。競売にする事です。私は悪い習慣だと思いました」
「成る程。してその書物の中で何が一番面白いと思いましたか」
「みんな面白うございました。飲み物の中に入れると直ぐに溶けて、飲んだ人を一時間の後《のち》に殺す支那の丸薬や、モルヒネをきっかり三時間後に利かせるように包むカプセルや、遠乗りの時に相手の馬にそっと舐《な》めさせておいて、きっちり二十分後に暴れ出させて、相手を殺すか傷つけるかする何とかいう石楠花《しゃくなげ》に似た植物の毒の話や……名前をつい忘れましたけれども……」
「……ちょっと待ち給え……それは馬酔木《あしび》の毒でしょう」
「そうです。やっと思い出しました。この頃アフリカから米国に輸入されております大変に安くてよく利く馬の皮膚の虫取り薬です。コンゴー・ポイゾンと私共は申します。真黒なネットリした液体です。百|磅《ポンド》入りの鑵《かん》の上に貼った黄色い紙に、C・Pという頭文字《イニシアル》と、その植物の絵が印刷してあります」
「……ふ――む…
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