た中央郵便局で破棄される郵便物の中に貴方のお書きになった『毒物研究』という書物があったんです」
「僕の……」
「はい……」
「……フ――ム……あれは私が道楽に秘密出版をしたもので、各大学の法医学部と、私の持っている参考書の著者に五百部だけ贈呈したものなんだが、それがどうして亜米利加《アメリカ》三界《さんがい》まで行ったんだろう」
「何故だか存じませんけど発送人の名前も何もなくて、宛名は中央郵便局留置27号私書|函《かん》、エム・コール殿となっておりました」
「エム・コール……知らない人間だな」
「……きっと偽名だったろうと私は思うんです。その時にはもう27号の持主が変っていたんですから……」
「成る程……しかし、そんなものは焼き棄てるのが当然でしょう」
「いえ。米国ではそうでもないんです。一度中味を検《あらた》めて、貴重品は国庫の収入にして、そのほかの詰まらないものを局内で競売にして、下役の連中の慰労や何かの費用にしてしまうのです。ですから真実《ほんとう》に焼き棄てるのは危険物だの、まるきり役に立たないものだのばっかりです」
「……ではそれを買った訳ですね」
「はい。けれどもそれを読ん
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