して云い難《にく》そうに口籠《くちご》もった。
「……はい……僕の研究が本物かどうか知りませんけど、私はその広告を見てから急に思い立って薬物と、物理と、化学を勉強し初めました。物理は実験なしでも大抵わかりましたけれど化学は空《くう》ではなかなかわかりませんでしたので中学《ハイスクール》の校長さんにお願いして、自分で薬を買って実験さしてもらいました。初めはなかなか難かしかったんですけど、そのうちに周規律を諳記してしまいますと素敵に面白くなって、じきに有機化学の方へ入りました」
「……ウ――ム……」
 と私は唸《うな》り出した。この少年の正則の勉強方法を否定出来なくなったので……。
「それはつまり僕に雇われたいから勉強したんですね」
「……ええ……初めはそうだったんですけど、後《あと》にはそればっかりでなくなりました」
「本当に面白くなったんですね」
「……はい……」
「有機の中《うち》では何が一番面白かったですか」
「毒物の研究が一番面白う御座いました」
「えッ……毒物?……」
「はい……」
 私は眼を丸くしない訳に行かなかった。
「……どうして毒物が面白いのですか」
「最前お話ししまし
前へ 次へ
全471ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング