を見上げた。
「それはいつ頃だ」
「一時間……二時間ぐらい前です」
「どんな人間だ……」
「……よく……わかりません。俥《くるま》の幌の中から差し出したんですから……けれども何でも若い女の方のようでした」
「何と云った」
「エ……?」
「そいつが何と云った」
「二階の窓のすぐ側の西側の隅っ子の卓子《テーブル》に灰色の外套を着て、腰をかけて居眠りをしている紳士の方に差上げてくれと……」
「それだけか」
「ハイ……」
私は窓の外を見た。私の姿は窓の外から見えないようになっている。
「俥の番号は記憶《おぼ》えているか」
「よくわかりませんでした」
「どっちへ行った」
「新橋の方へ……」
私は紫のハンカチを新聞紙と一緒に内ポケットへ突込んで、机の上に五十銭玉を五つ投げ出した。
「お釣銭《つり》はお前に遣る」
と云ううちに帽子を掴んで表に飛び出しかけたが又立ち止まってボーイを振り返った。
「俺が今喰った……その四皿の料理はスープとハムエッグスと黒|麺麭《パン》と珈琲《コーヒー》だったナ……ウイスキー入りの……」
「ハイ……貴方が御註文なすったんです」
ボーイは叱られるのを待っているような
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