顔をした。
「よし。この家《うち》には電話があるか」
「御座います」
「数寄屋橋タキシーに電話をかけて早いのを一台大至急でここへ……」
「タキシーなら一軒隣りに二台あります」
 私はその声を半分階段の途中で聞きながら表へ飛び出した。ボーイが指した方向の一軒隣りに駈け付けて、たった今帰って来たばかりの新フォードに飛び乗ると、ニキビだらけの運転手に五円札を二枚握らした。
「新宿駅まで……全速力だぞ……車内照明《ルーム》を点《つ》けないで……」
 運転手は札《さつ》を握ったまま恨めしそうに振り返った。
「この頃はルーム点けないと八釜《やかま》しいんです。直ぐに赤自動自転車《アカバイ》が追っかけて来るんです」
「構わない……俺は警視庁と心安いんだ……」

 話が又、少々|傍道《わきみち》へ這入るようであるが、しかしここでちょっと脱線を許してもらわないと、話の筋道が無意味になりそうだから止むを得ない。
 あれ程、昏迷に昏迷を重ねて来た私が、何故にこのような猛然たる活躍を初めたか。もっと具体的に云えば、前記の通り取り付く島もないほどへたばり込んで、涙も出ないほど叩き付けられていた私が、たった今、カ
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