さび》しい風情を示しているばかりである。
私は思い惑わざるを得なかった。何だか古い借銭の催促を受けているような気がして、今更にこの広告を出した時の乱れた、悲しい気持ちを思い出させられた。そうしてこの少年をここに連れ込んだ事を、深く後悔せずにはいられなかった。何故もっと早く、徹底的に厳格な態度を執って面会を断らなかったろうと思った。……けれども最早《もう》、ここまで来た以上は仕方がない。この少年は私が二年前に出した広告をいつまでも……私が息を引き取る間際までも有効だと一図《いちず》に信じて来ているらしい。だから迷惑ではあるが一応の責任は負わねばならぬ。そうして……今は助手の必要がなくなった。そんなに古い広告をいつまでも当てにしているものではない……という意味を、何とか相手が満足するように云って聞かして帰さねばならぬ。
私は稍《やや》態度を和《やわら》げて訊ねた。
「……あなたのお住居《すまい》は……」
少年は顔を上げた。依然として謹んだ態度で答えた。
「……私は家《うち》がないのです。両親も何もない一人ぽっちなのです。……ですから貴下《あなた》に雇って頂いてお宅に住まわせて頂きたい
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