け》のない発音で、もはや殆んど確定的であると考えた。同時にその簡潔を極めた要領を得つくした説明ぶりに、又もや感心させられてしまった。
「ははあ……そんなに日本が懐かしかったのですか」
「はい。そればかりではありません。私はずっと前から日本語を勉強しておりまして、日本文字のものならば印刷したものでも書いたものでも何でも構わずに集めておりました。その中でも日本の新聞は、日本の事を研究するに一番都合がよかったのです」
「ふむ。……ではその広告が眼に止まった理由は……」
「私は……貴下《あなた》に雇って頂きたいのです。……あなたは……まだ……助手を……お持ちに……ならないのでしょう……」
 少年はこう言って急に口籠《くちご》もりながらじっと私の顔を見た。その黒い瞳《め》は熱誠にまばたき、その白い頬は見る見る真紅《まっか》に染まって来た。その一瞬間、私はこの少年の美しさで全神経を蔽《おお》われたような気がして眼を瞑《つむ》ったが、やがて又見開いて見ると、少年はいつの間にか伏目勝ちにうなだれていた。そうして片手を椅子にかけたまま、謹んで私の返事を待っているらしい。その頬も白くなって、唯、可憐な淋《
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