、誰でも私の職務上の名声を知っている筈だから、滅多な者は寄り付くまいと思って履歴書、身元証明不要と出しておいたのであるが、案に相違して碌《ろく》なものはやって来なかったので、私は些《いささ》かならず自尊心を傷けられたものであった。その思い出の広告をこの少年は、今までどうして持っていたものであろう。
「この広告は私が出したものに違いありませんが、貴方はどうしてこれを持っていましたか」
「紐育《ニューヨーク》の中央郵便局で見付けました」
「……え……紐育の中央局で……」
「はい。私がそこのボーイになっておりますうちに受取人のない小包郵便を焼き棄てるのを手伝わされた事があります。私達はその小包を焼き棄てる前に一つ一つ開いて、危険なものだの貴重品だのが入っていないかどうかを係りの人に見てもらうのですが、その時に取棄てた包紙の中にこの新聞が混《まじ》っていたのです」
 少年の言葉は益《ますます》出でて益異様である。しかしこのような余り人の知らない内情を知っているからには作り事ではないらしい。のみならずこの少年が純粋の日本人らしいという事は、故郷の新聞を懐かしがる行為と、その軽快な混《まじ》り気《
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