たもので藤波自身もこの内容を存じません。これは同人に内容を知らせて迷惑をかけたくない考えから致しました事で、一つには同人に預けておきました方が、可疑《いか》がわしい銀行の地下室に預けるよりも安全確実と信じましたからかように計らいました次第であります。
[#ここで字下げ終わり]
次に、先ずJ・I・C秘密結社の恐るべき内容を暴露致します前に、順序として小生の経歴を少しばかり述べさして頂きたいと思います。
小生の父は千葉県の旧士族でありまして、極端な漢学崇拝者でありましたが、御維新の際、彰義隊に加わって各地に転戦した事があります。その後一人息子の小生と共に、前記原籍地に隠遁致しまして、書道漢学の塾を開いておりましたが、近来の学校制度を極度に嫌いまして、小学校卒業後の小生を上の学校に進ませず、塾生と一緒に厳格な漢学教育を仕込んでおりました。これは性来のなまけ[#「なまけ」に傍点]者で自由思想崇拝者の小生としては実に不満苦痛に堪えない境遇でありましたが、父の厳命が恐ろしいと同時に、経済上の都合から、苦学をする勇気もないままに、止むを得ず隠忍致しておる状態でありました。
然るにその父は、そ
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