の後間もなく、小生が十六歳の時に死亡致しましたから小生はここぞとばかり、僅かばかりの家財を処分致し、村人の餞別を受けて東京に出まして、学校に入って新知識を得ようとしましたが、それまでの厳格な教育の反動が来ましたものか、親譲りの飲酒癖が次第に高まって来まして、遂に堕落学生の群に入り、種々の悪事と醜行に興味を持つに至り、数年の後にはM男爵の遠縁に当る富豪、現貴族院議員、枢密院顧問官|久礼《くれ》伯爵の三女ノブ子を誘うて亜米利加《アメリカ》に渡航する事に相成りました。
米国渡航後の小生はローサンゼルス市を相手とする草花栽培に着眼し、特に自分の趣味として酒類の合成法に深入りしまして爾後《じご》二十何年の間に幾多の新発見を致しました。従って、有機化学的の研究から毒薬の研究にも趣味を持つようになりましたもので、現在小生が所持しております一瓶の如きは小生手製の物の中《うち》でも最猛毒な一種であります。しかもこれは失礼ながら、ずっと後《のち》に手に入れました貴下の秘密出版にかかる『毒薬の研究』の中にも洩れているようでありますから、その製法を御参考迄に説明致しますと、臭気でもお解りになります通り木精《
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