みをした故志村浩太郎氏の名刺であった。
藤波堅策兄[#中文字]
志村浩太郎印[#「印」は○付き文字][#中文字]
この名刺持参人に御保管の書類を
お渡し被下度候《くだされたくそうろう》
「この名刺を探し出すまでは何でもなかったんです。……ですけども誰にも気付かれないようにこの名刺を持って藤波さんの処へ行くのがとても大変でした。それは日本に着いてから、私のそぶりが何だか落ち着かないのを怪しまれたのでしょう。団長と、その部下の二三人がそれとなく私を警戒し初めましたので困ってしまいましたが、そのうちにやっと昨日《きのう》の夕方、隙《すき》を見付けて藤波さんの処へ行ってこの名刺をお眼にかけますと、藤波さんは私を一目見るなりびっくりなすって、これは驚いた。ノブ子さんの若い時にそっくりだ。どうして来たと云われましたので、私もびっくりしてしまいました。それから生れて初めて日本のお座敷に坐りまして御親切な奥様や大勢のお嬢様たちと一緒にお寿司を御馳走になりながら、色々と藤波さんのお話を聞きましたが、私の両親は亜米利加《アメリカ》に居るうちに、ローサンゼルスで、雑貨店
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