書いてあるでしょう」
「……それは……酔っ払って……転んだものと……」
「……ですけども……僕はそうじゃないかも知れないと思ったんです。……ですからその晩になって夜が更けてから、こっそりと帝国ホテルを脱け出して、あの木の下に来てみたら、大きな四角い石ころが一個《ひとつ》、拡がった根っ子の間に転がっておりました。僕がやっと抱え除《の》けた位の大きさですが、まだあそこに転がっております。その石の下を覗いてみたらすぐに見つかりました。土の中から、こんなものが一|寸《すん》ほど頭を出しておりました。大方雨に洗い出されたのだろうと思いますが……」
 私はもう口を利く事が出来なかった。黙って椅子から立ち上って、少年が差し出した長さ三寸程の鉛の管《くだ》を受取った。それは両端を打ち潰して封じてある一方をこじ明けたもので、中からは白い紙の端が覗いている。引き出して見ると、それは二枚の名刺で、その中の一枚は、

   弁護士 藤波堅策[#中文字]
    東京市麹町区内幸町一丁目二番地[#小文字]
            電話 二二七三[#小文字]

 という一流弁護士のもので、もう一枚はペン字で書き込
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