が、一人も子供を残さずに死んでから又昔の生活に帰った。だから私は日本中は勿論の事、外国にも血縁の者が居ない。居るかも知れないがまだ尋ねて来ないし、こっちから探した事もない。又友達から二度目の妻帯を勧められた事もあったが、私は一度も応じなかった。だから私は勢い孤独の生活を過さなければならなかった。
友達は皆私を変人とか仙人とか云ったが或《あるい》はそうかも知れぬ。又ある者は一種の疳癪《かんしゃく》持ちと評したが、これはたしかに事実である。私が警視庁に在職中、あらゆる仕事を我流一点張りで押し通したために、社会の暗黒面に住む人間ばかりでなく、部下の警官連や、上官にまでも恐れられていたらしい事は、新聞の下馬評や何かにも屡々《しばしば》伝えられたところで、従って最近に至って、上官と大衝突をやって退職したのもこの疳癪が大原因を成している事は自分でもよく知っている。吾ながら損な性質だと考えている位である。
しかし私がこのような性質になったのは決して生れ付きではない。英国で両親を喪《うしな》ってから日本に来る迄の二十何年の間、あらん限りの苦労を重ねて……この世には悪人ばかりしか居ないものか……と思
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