ブリッジ》大学の応用化学を出た人で、J・I・Cの団長W・ゴンクールの先輩に当る人だ。卒業生の名簿を御覧になればわかる。……この事が狭山さんに洩れた事がわかったらJ・I・Cで大警戒をするからそのつもりで極《ごく》秘密にして行け」
 と申しまして強いて妾を去らせました。
 しかし妾は尚も夫の身の上の程を心許なく存じましたので、昨夜《ゆうべ》遅く、共々に狭山様の処にお伺い致します決心で、人知れずステーション・ホテルに訊ねて参りまして、ボーイに二十円を与えて案内させ、夫の室《へや》に参り、内側から鍵をかけまして、気永く自殺を諫めにかかりましたけれども、夫はやはり相手になりませず、泥靴のまま寝台の上に横たわりまして、只管《ひたすら》に眠るばかりでございました。
 それで妾は、今朝《けさ》早く、今一度参ります心組で、手袋をはめながら窓を閉《とざ》し、電燈を消して廊下に出ましたところ、最前案内を頼みましたボーイが立ち聴き致しておりましたらしく、逃げて行くうしろ姿を認めましたから急に呼び止めまして、又も二十円を与えて口止めを致しましたが、そのまま今一度|扉《ドア》の前に引返《ひっかえ》し、室内の様子に
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