味も全く不明なのでございますから、妾は色々と考えをめぐらせました後《のち》、たといJ・I・Cの制裁を受くるとも構いませぬ覚悟で、そのまま日本に踏み止まり、夫の到着を待つことに決心致しましたが、そう致しておりますうちに去る六日の朝、帝国ホテルに到着、宿泊しておりました夫より、至急、本郷菊坂ホテルにて面会致したい旨を、電話にて申込んで参りましたから、取るものも取あえず駈け付けたのでございます。
 さてその時の夫の申条《もうしじょう》、または私の返答致しました模様などは皆、妾の愚痴がましく相成りますから、ここには略させて頂きます。けれどもその結果、前に申上げました或る事情のために私の不貞を疑っておりました夫は、初めてその非を悟りましたものか、一言も物を申し得ぬように相成りまして、そのまま味気なく別れる事になりましたが、それから二三日の間と申すもの夫は一度も帝国ホテルに姿を見せませず、どこへか姿を晦《くら》ましてしまいました。
 妾はそれと知りましてどう致したらよいものかと、毎日|時雨《しぐれ》勝ちの空を眺めて思案に暮れておりました。ほとんど食事も進みかねておりましたのでございますが、その折柄
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