も経たないうちに警視庁《やくしょ》の前で飛降りた。その姿を見ると志免警部は表の階段を降りて迎えに来たが、そのあとから選《よ》りに選《よ》った強力《ごうりき》犯専門ともいうべき屈強の刑事が三名と、その上に熱海検事、古木書記までも出かける準備をして降りて来た。ちょっと眼に立たないが、近来にない目の積んだ顔揃いで、早くも事件の容易ならぬ内容を察した志免警部の機敏さがわかる。おまけにどこをどう胡麻化《ごまか》したか新聞記者が一人も居ない。これだけの顔が出かけるとなれば、すぐに新聞記者の包囲攻撃を受けなければならないのだが……と……そう気が付いてキョロキョロしている私の腕を捉えて志免警部はぐんぐん数寄屋橋の方へ引っぱって行きながら、耳へ口を寄せるようにして囁《ささや》いた。
「女を隠れ家に送り込んだ、三五八八の自動車が帰って来ましたので……」
「えっ。三五八八」
「そうです。数寄屋橋タクシーです」
「……それじゃ……先刻《さっき》のがそうだったんだ」
「発見していられたんですか最早《もう》……」
「うん。そうでもないが……相手は大勢かね」
「はい。運転手の話によると女の外に、凄い顔付《つらつき》
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