て待っていた。
「モシモシ。モシモシ。時間ですよ」
と交換手の声が聞えて来た。私は又五銭白銅を穴の中へ入れた。その音の消えない中《うち》に志免警部は口を利き出したがもうぐっと落ち着いている。
「……や……失礼しました。あまり急いだものですから息が切れて」
「どうしたというのだ」
「タクシーで逃げるのを自転車で追《おっ》かけたのです」
「逃がしたのか」
「逃がしましたがその自動車の運転手が帰って来たのを押えて何もかも聞きました」
「御苦労御苦労……手配はしてあるね……」
「ハイ。それから熱海検事が今総監室に来ておられます。一緒に来られるそうです」
「検事なんか何になるものか。自動車はいるね」
「ハイ。皆出切っておりますから呼んでいるところです。……実は女《ほし》の隠家《あな》を包囲したいと思うんですが、十四五名出してはいけませんか」
「いけない。眼に立ってはいけない。国際問題になる虞《おそ》れがある」
「今どこにお出《いで》ですか」
「日比谷だ」
「それじゃお迎えにやります」
「来なくていい。そこまでなら電車の方が早い」
日比谷公園の正門を駈け出すと、全速力の電車に飛び乗った私は五分
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