をした支那人や朝鮮人を合わせて四五名居ると云うのです」
「新聞記者が一人も居ないのはどうしたんだ」
「貴方が日比谷公園で迎えの自動車を待ってられると聞いて皆飛んで行ったんです」
「事件の内容は知るまいな」
 と云いも了《おわ》らぬうちに山勘横町《やまかんよこちょう》の角から一台の速力の早いらしい幌《ほろ》自動車が出て来て私達の前でグーッと止まった。先刻《さっき》の軍艦色のパッカードである。続いて来た一台の箱自動車は志免刑事の相図を受けて警視庁の入口の方に行った。
 私達は猶予なく自動車に飛び乗った。あとから追っかけて来た三人の刑事も転がり込んだ。
 志免警部は運転手に命じた。
「お前が今行った家《うち》へ……一ぱいに出して……構わないから……」
 運転手はハンドルの上に乗りかかるようにうなずいたと思うと、忽《たちま》ち猛然と走り出して電車線路を宙に躍り越えた。その瞬間に私は思った。これ位軽快な車はタクシーの中《うち》にも余りあるまい。今たしかに三十五|哩《マイル》は出ている……と……その中《うち》に志免刑事が口を利き出した。
「いや。非道《ひど》い眼に会ったんです。私はタイプライターの
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