法被《はっぴ》に関する報告が書き取ってありますが……」
「読んでみたまえ」
「……一つ……芝区に向いたる轟刑事第一報告(午後十二時五分着)新橋二五〇九と染め抜きたる新しき法被を日蔭町の古着店にて発見せり。売却人は若き車夫|体《てい》の男にて『この法被はいらなくなったから売る』といいたり。古着店主辻孝平は該《がい》車夫が、番号の相違せる古き法被を下に着たるを怪しみ理由《わけ》を問いたるに『なに。この法被は貰ったんだけれど番号を改《か》えるのが面倒だから売る』と云いたるを以て三十銭に買い取りし旨を答えたり。時刻は昨夜九時頃にして、面体、及び、下に着せる古き法被の番号は明瞭に記憶せざれどたしか芝……〇二なりしと云えり。但し、その時俥は引きおらざりしとの事なり。小官はこの旨を新橋署にて調査中なりし金丸刑事に報告し、法被は店主に保管を命じ借着屋の調査に向いたり。
一つ……金丸刑事第一報告(十二時二十五分着)新橋二五〇九の俥は実は芝一四〇二号なり。芝神明前俥宿|手鳥《てどり》浅吉の所有にして挽子《ひきこ》は市田勘次というものなり。十二日午後二時頃、同人は客を送りて麹《こうじ》町区|隼《はやぶさ》
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