極めて手っ取り早いものなのだ。すなわち赤い線を引いた各行の頭の文字だけを拾い読みすればいいので、一番最初の数文字が、意味をなさない人の名前になっているためにチョット気が付かなかったのだ。
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しむら、のぶこ[#「しむら、のぶこ」に傍線]よ。貴方の夫は裏切者です。彼は吾々《われ/\》ぜい、あい、しいの金七万八千|弗《ドル》を奪つて日本へ逃げて来てぜい、あい、しいの暗号を日本の外務省に送りました。彼はぜ、あ、し[#「ぜ、あ、し」に傍線]から死の宣言を受けました。それと一緒に私は、貴女《あなた》を見張るやうに命令されましたところ貴方は窃《ひそか》に夫を探し出してその金を奪つて、どこかに隠れる支度をして居《ゐ》る事を留学生のをりん、ゆう、せき[#「りん、ゆう、せき」に傍線]がみつけましたから私はぜ、あ、し[#「ぜ、あ、し」に傍線]本部へ知らせました。しかし貴女《あなた》の死の宣告はまだ来ませぬ。貴方が美しいからです。お二人の事を知つてゐるのはりん[#「りん」に傍線]と私だけです。りん[#「りん」に傍線]はお二人を殺すと云つて居《お》ります。あなた夫婦を助ける者は私だけです。
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