その理由《わけ》はお眼にかゝつて話します。色恋でも金のためでもありませぬ。日本のためです。信じて下さい。十四日午後五時に半蔵門停留場にお出でなさい。貴女《あなた》はいつもの黒い服。私は黄色い鳥打帽子。運転服。かしを。
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赤い線は一頁に二つか一つ半位の割合で附録詩篇の四十六篇の標題、
――女《をんな》の音《こゑ》の調《しら》べにしたがひて……。
という処まで行って、おしまいになっている。
いつの間にか起き上って、眼を皿のようにしていた私は、聖書をピッタリと閉じて老眼鏡を外すと黒い表紙の上をポンと叩いた。そうして思わず、
「成る程。わからない筈だ」
と叫びながら音楽堂の上の青い空を仰いだ。
今まで私の眼の前を遮っていた疑問の黒幕がタッタ今切って落されたのだ。そうしてその奥に更に大きな、殆んど際涯《はてし》もないと思われる巨大な、素晴らしい黒幕が現出したのだ。
元来米国と欧洲の瑞西《スイス》は、世界各国の人種が出入りするために、各種の秘密結社の策源地のようになっている。その中でもJ・I・Cというのはどんな種類の秘密結社か知らないが、この文の模様で見ると米
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