パナマ帽を脱いで、
「何卒《どうぞ》宜しくお頼ん申しやす。私《わし》で御座いやす。貴方《あなた》のその鋼鉄のような眼で睨まれちゃ、逃げようにも逃げられません」
と云った位である。況《ま》してこの時は、たかが一介のビショビショ少年の正体を見破る事が出来なかったのみならず、あべこべに驚かされ、迷わされ、感心させらるるばかりで、手も足も出なくなった口惜しささえ感じていたのだから……そうして初対面の作法も何もかも忘れて睨み付けていたのだから必ずや容易ならぬ眼色《めいろ》をしていたに違いないと思う。
ところが少年は、そうした私の眼の光りに射られながらちっとも臆した色を見せなかった。ただ持ち前の無邪気な、落ち着いた眼付きで私を見上げていた。……のみならずその黒い大きな、二重瞼の眼はこんな事を云っているようであった。
「貴方が私を御覧になるのは只今が初めてでしょう。けれども私はずっと前から貴方のお顔を知っていたのですよ」
……と……。又その素直な恰好のいい鼻は、
「私がここにお伺いしましたのは大切な用事をお願い申上げたいからですよ」
という意味をほのめかしたようであった。そして又、その人懐《
前へ
次へ
全471ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング