がここまでこの少年に就《つ》いて観察して来たのはほんの二三秒ばかりの間の事であった。こうして二十八の年から四十九歳の今日《こんにち》まで警視庁に奉職して、あらゆる難問題を解決して、鬼|狭山《さやま》とまで謳《うた》われた私の眼力は、この少年の五尺二寸ばかりの身体《からだ》を眼の前に置きながら、遂に何等の捕えどころも発見し得なかった。僅かに発見し得たものは皆、驚きと感心の材料になるばかりであった。
……一体この少年は何者であろう。
……外国人か、日本人か、それとも混血児か。
……どこから来た者であろう。
……何しに来たものであろう。
……特に自分に対して何の用があって来たのであろう。
私は今一度ジット少年の顔を見た。
あとから考えるとこの時の私の眼は、嘸《さぞ》かし鋭い光りを放っていたであろうと思う。
私は今まで、たった一眼見ただけで、その人間の職業や性格は愚な事、その経歴まで見破った例が少くないが、それだけに私の眼は鋭い光りを放っていた。嘗て或る脱獄囚が、立派な紳士の服装をしているのを、どこかの職工が金でも儲けたのか知らんと思って見ていたら、その男はいきなり私の傍へ来て
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