の、上衣に並んだ十個の鉄釦と、ズボンのふくらみとの釣合いに五分の隙《すき》もないところなぞを見ただけでも、たしかに外国仕立で、しかもこの種類の服装を扱い慣れた専門家の手にかけたものと判断しなければならぬ。こうしてこそ初めて服装は肉体美を更に美化するものという事が出来よう……否……単に服装ばかりでなく、この少年の持物の全体を通じて何一つ上等でないものはない。そうして更に驚くべき事には、その服も帽子も、オリーブ色の雨外套《レインコート》も、染料の香気がまだプンプンしているらしい仕立卸しで、硝子《ガラス》のように光っているエナメル靴の踵《かかと》までも、たった今土を踏んだばかりのように一点の汚れも留めていない事であった。
 私は少年の異様に白い顔と、この服装とをモウ一度見上げ見下した。これはどこかの洋服屋の飾窓《ショーウインド》の中に在る蝋人形がそのまま抜け出して来て、ここに立っているのではないか……とあられもない事まで疑った。けれどもその黒く霑《うる》んだ瞳と、心持ち微笑を含んだ唇が明かに私のこうした妄想を裏切っている事を認めない訳に行かなかった。
 ……不思議だ……わからない……。
 私
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