の真相というのも実は、稀代の大悪党と大毒婦の腕比べのあらわれかも知れないという疑いを十分に持っていたのであった。……だから……従ってその片対手《かたあいて》の洋装の女が、どの程度の毒婦か。まだほかに余罪があるかないか。どこからどうして毒薬を手に入れたか……というような事実はこの際、焦げ付くほど探っておきたかった。又、そうしておけば、女が捕まった暁に、取調べの方も非常に楽になると思ったからであった。
 とはいえ、勿論こんなカフェー見たような処で、そんなところまで探り出すというのは、万一の僥倖《ぎょうこう》以外に、殆んど絶対といってもいい位不可能な事で、如何に自惚《うぬぼ》れの強い私でも、そこまでの自信は持っていないのであった。しかし、女というものは元来非常な強情なもので、自分の手を血だらけにしていてもしらを切り通すのが居る。殊に今度の女は、そんな傾向を多分に持っているらしい事が、あらかた予想されていたので、出来るだけ余計に証拠をあげて捕まったら最後じたばたさせたくない……というのが私の職務的プライドから来た最後の願望なのであった。(……読者はもう気付いておられるであろう。今度の事件の係り
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