して私の天狗の鼻が、如何に超自然な物凄い手で、鮮かに※[#「※」は「てへん+宛」、第3水準1−84−80、94−1]《も》ぎ取られて行ったか……というその時その時の気持ちを正直に告白しているつもりなので、もう一つ露骨に云うと、私のようなものをおだて上げて、こんな酷《ひど》い眼に会わしたその当時の日本の探偵界の悲哀を、今日現在の日本の名探偵諸君に首肯して頂きたいばっかりにこの筆を執《と》っている者である。
だから、これから先に記述する事実は、いよいよ得意になった私が、いよいよ失敗の深みに陥って行くところ……否……いよいよ失敗の深みに落ち込んで行きながら、いよいよ得意になって行くところ……いや……どっちにしても結局同じ事だが……そんな事ばかり書いて行かなければならぬので、読む方は面白いかも知れないが、書いて行く身になると実に辛い。書かない前から冷汗がポタポタと腋《わき》の下に滴《したた》る位である。
しかしその時の私は頗《すこぶ》る真剣であった。後になってこんな冷汗を掻くだろう……なぞとは夢にも考えない、探偵の神様気取りの私であった。
私はステーションホテルを出ると、たった一人で市役
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