話である。既に今まで述べて来た話の中でも、私は取り返しの付かない大きな見落しをやっているので、冷静な頭で読まれた諸君は最早《もはや》、とっくと気が付いておられる事と思う。そうしてこの狭山という男は、課長とか何とか偉そうな肩書を振りまわしているが、案外だらしのないそそっかし屋だ。おまけに下らないところで威張ったり、名探偵を気取ったりして、恐ろしく気障《きざ》な奴だ……とか何とか腹を立てておられる人が在るに違いないと思う。
しかしこれは誤解しないようにして頂きたい。
私は正真正銘のところ、私の名探偵振りを諸君に見せびらかすつもりでもなければ、自慢話を御披露したがっているのでもないのである。この記録の冒頭にもちょっとお断りしておいた通りの意味で、私の世にも馬鹿げた失敗談を公表しているに過ぎないのだ。世間から名探偵とか、鬼課長とか持ち上げられるのを真《ま》に受けて自分が豪《えら》いのだと確信していた私……いい気になって日本の探偵界を攪乱していたつもりの私が、どんな手順に引きずられて、知らず識《し》らずの中に、世にも恐ろしい秘密結社、J・I・Cの底知れぬ秘密の方へ惹き付けられて行ったか。そう
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