。二人の眼には確信の輝きがあった。私の命令の意味を十分に呑み込んで、遠からず女を逮捕して見せるという私の自信を、そっくりそのままに自信しているものと見えた。
 けれども私は、居室《いま》に退いた連中が、まだ相談を初めないうちに、突然、眼を閉じて頭を強く振った。
「……オイ……いけない……ちょっと待った……」
「……………」
 腰をかけていた連中は皆立ち上った。屍体の足の処を行きつ戻りつして考え初めていた熱海検事も、その位置に停止した。窓の前で何やら話し初めていた杉川警察医と古木書記の二人も皆、面喰った顔を揃えて私の方に向けた。
 私は右手でぴったりと額を押えながら杉川警察医をかえり見た。
「杉川君……」
「ハイ」
「先刻《さっき》ボーイの山本が意識を回復した時に……モウ正午《ひる》過ぎですか……とボーイ頭の折井に訊ねたのは、単に寝ぼけて云ったのでしょうか……それとも何か理由があって訊いたのでしょうか」
 杉川医師もちょっと横額《よこひたい》を押えた。
「サア。その辺はどうも……」
「私が行って訊いてみましょうか」
 と轟刑事が進み出た。
「ああ。そうしてくれ給え。今日の正午《ひる》まで
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