家《うち》の近所か、又は勤め先の会社か何かに近い、きまり切った店でリボンを買うものだからそのつもりで……。それから借着屋を当らせること……。着物の種類はわかっているだろう……女がヘリオトロープの香水を使っている事を忘れないように……それからもう一つ新橋二五〇九という俥屋《くるまや》を探してもらいたい……こっちが先かも知れないがその辺は志免君の考えに任せる。相当|手剛《てごわ》い女と思った方が間違いないだろう。……それから二種類の毒薬の分析は無論のこと、屍体解剖の序《ついで》に左腕の刺青《いれずみ》の痕を切り抜いてもらって、残っている墨の輪廓を出来るだけ細かに取っておくように……それだけ……」
命令を終ると皆、眩《まぶ》しそうに私の顔を仰いだ。私の下した判断と処置が、あんまり迅速であったからであろう。皆互に顔を見合わせて突立った切りであった。
やがて志免警部の顔に感動の色が動いた。飯村部長の顔にも動いた。二人とも懐中時計を出して、十時十五分を示している私のと合わせてから、熱海検事と私に一礼すると、日比谷署の連中や、直接の部下と一緒に活動の手分けをすべく、隣りの居室《いま》の方へ退いた
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