いてずっと大胯《おおまた》になっている。これは犯行後に於て、犯人が非常に落ち着いた場合か、又は非常に狼狽した時にあらわれる足跡の表情であるが、鍵をかけるのも何も忘れて立ち去ったところを見ると、後者に属する足跡と見るべきであろう。
そこで以上述べたところを綜合して考えてみると、つまりこの女は一度関係を結ぶか何かして別れた男が、金持になって、外国から帰って来たのを見て、これを脅迫するか欺《だま》すかして、金を奪った後で、後難を警戒するために殺したものと思われる」
ここまで説明してから、又、十四号室の中に引返して来ると、皆もあとから這入って来た。その扉《ドア》を固く締めてから、熱海検事に脱帽して許可を得た私は、部下を岩形氏の枕元に集めると、次のような命令を下した。
「志免君と飯村君は東京市内と附近の銀行へ、いつもの通りの形式で通知を出してくれ給え。今のような女が、多少に拘らず金を預けに来たら急報してくれるように……それから、これは日比谷署にもお手伝いが願いたいのだが、市内でタイプライターを売っている店はいくらもあるまいから当って見ること……。タイプライターを本職にしている女だったら大抵|
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