が現われているようであるが、それが又|却《かえっ》てこの少年の無邪気な表情を、一際異様に引き立てていて、日本人としては余りに綺麗に、西洋人としてはあまりに懐《なつか》しみの深い印象を与えている。全体としては絵画や彫刻にも稀な、端麗な少年と云って、決して誇張でないであろう。
 これが私を「おや」と思わせた第一の印象であった。
 しかし、単に容貌を見ただけで相手を評価するのが大間違いである事は、多年の経験で知り過ぎる位知っている私であった。だからこの少年の容貌の端麗さに驚かされた私の眼は、その次の瞬間に、本能的に少年の服装に移って行ったが、これも亦、際立って異様で、見事なものであった。
 英国製らしい最上等の黒|羅紗《らしゃ》に、青|天鵞絨《ビロード》の折襟《おりえり》を付けた鉄釦《てつぼたん》の上衣を、エナメル皮に銀金具の帯皮で露西亜《ロシア》人のように締めて、緑色柔皮《グリーンレザー》の乗馬ズボンを股高《ももだか》に着けて、これもエナメル皮の華奢《きゃしゃ》な銀拍車付きの長靴を穿《は》いている。右の手には美術家が冠《かむ》るような縁の広い空色羅紗の中折帽に、その頃はまだ流行《はや》らな
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