。さ、お前のお母さんはお金をどこに仕舞っているか。言わないとこれで殺してしまうぞ」
 と言いました。
 チエ子さんは、
「お母さん」
 と泣きながら逃げ出しました。
「このやつ、逃げたな」
 と泥棒はいきなり追っかけてチエ子さんを捕まえようとしました。
 その時ブーンと唸《うな》って一匹の虻が飛んで来て、泥棒の眼の前でブルンブルンブルンとまわり始めました。
 泥棒は邪魔になるので、
「こんちくしょう、こんちくしょう」
 と払い除《の》けようとしましたが、なかなか払い除けられません。
 そのうちにチエ子さんは、
「お母さん、お母さん」
 と叫びながら障子を開けてお縁の方に逃げて行きます。
「逃がしてなるものか」
 と泥棒は一所懸命となって、とうとう虻をタタキ落として追っかけてゆきました[#「追っかけてゆきました」は底本では「追っかけてゆました」]。
 そうすると虻はタタキ落とされてちょっと死んだようになりましたが、又飛び上って泥棒の足へ飛びついて力一パイ喰いつきました。
「アイタッ」
 と泥棒はうしろ向きに立ち止まる拍子にお縁から足を辷《すべ》らして、石の上に落っこちて頭をぶって眼をまわ
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