してしまいました。
そのうちにチエ子さんは表へ出て、通りがかりのお巡査《まわり》さんにこの事を言いましたので、泥棒はすぐに縛られてしまいました。
お母さんがお帰りになってこのお話をおききになると、涙をこぼしてチエ子さんを抱きしめておよろこびになりました。
その時にチエ子さんはお縁側を見ると一匹の虻が死んで落ちておりました。
「お母さん、御覧なさい。この間の虻が泥棒を刺したのよ。あたしが助けてやったお礼をしてくれたのよ」
と言いました。
お母さんはおうなずきになりました。そうして晩方お父さんがお帰りになってお母さんがこのお話をされますと、お父さまはチエ子の頭を撫でながら、
「あぶとお話した子は世界中でチエ子一人だろう」
とお笑いになりました。
チエ子さんは虻のお墓を作ってやりました。
底本:「夢野久作全集7」三一書房
1970(昭和45)年1月31日第1版第1刷発行
1992(平成4)年2月29日第1版第12刷発行
初出:「九州日報」
1925(大正14)年9月13−15日
※底本の解題によれば、初出時の署名は「香倶土三鳥」です。
入力:川山隆
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