虻のおれい
夢野久作

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)瓶《ビン》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)追っかけてゆきました[#「追っかけてゆきました」は底本では「追っかけてゆました」]
−−

 チエ子さんは今年六つになる可愛いお嬢さんでした。
 ある日裏のお庭で一人でおとなしく遊んでいますと、
「ブルブルブルブル」
 と変な歌のような声がきこえました。
 何だろうとそこいらを見まわしますと、そこの白壁によせかけてあったサイダーの瓶《ビン》に一匹の虻《あぶ》が落ち込んで、ブルンブルンと狂いまわりながら、
「ドウゾ助けて下さい。ドウゾ助けて下さい」
 と言っています。
 チエ子さんはすぐに走って行ってその瓶を取り上げて、口のところからのぞきながら、
「虻さん虻さん、どうしたの」
 と言いました。
 虻は狂いまわってビンのガラスのアッチコッチへぶつかりながら、
「どうしてか、落ち込みましたところが、出て行かれなくなりました。助けて下さい、助けて下さい」
 と泣いて狂いまわります。
 チエ子さんは笑い出しました。
「虻さん、お前はバカ
次へ
全7ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング