虻のおれい
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)瓶《ビン》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)追っかけてゆきました[#「追っかけてゆきました」は底本では「追っかけてゆました」]
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チエ子さんは今年六つになる可愛いお嬢さんでした。
ある日裏のお庭で一人でおとなしく遊んでいますと、
「ブルブルブルブル」
と変な歌のような声がきこえました。
何だろうとそこいらを見まわしますと、そこの白壁によせかけてあったサイダーの瓶《ビン》に一匹の虻《あぶ》が落ち込んで、ブルンブルンと狂いまわりながら、
「ドウゾ助けて下さい。ドウゾ助けて下さい」
と言っています。
チエ子さんはすぐに走って行ってその瓶を取り上げて、口のところからのぞきながら、
「虻さん虻さん、どうしたの」
と言いました。
虻は狂いまわってビンのガラスのアッチコッチへぶつかりながら、
「どうしてか、落ち込みましたところが、出て行かれなくなりました。助けて下さい、助けて下さい」
と泣いて狂いまわります。
チエ子さんは笑い出しました。
「虻さん、お前はバカ
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