だねえ。上の方に穴があるじゃないか。そう、あたしの声が聞こえるでしょう。その方へ来れば逃げられるよ。横の方へ行ってもダメだよ。ガラスがあるから」
 と言いましたが、虻はもう夢中になって、
「どこですか、どこですか」
 と狂いまわるばかりです。
 チエ子さんは虻が可哀そうになりました。どうかして助けてやりたいと思って、そこいらに落ちていた棒切れを拾って上から突込んで上の方へ追いやろうとしましたが、虻はどうしても上の方へ来ません。うっかりすると棒にさわって殺されそうになります。
 チエ子さんは困ってしまいました。どうして助けてやろうかといろいろ考えました。
 上から息を吹きこんだり、瓶をさかさまにして打ちふったりしましたが、虻はなかなか口の方へ来ません。やっぱり横の方へ横の方へと飛んでは打《ぶつ》かり、打かっては飛んで、死ぬ程苦しんでいます。
 チエ子さんは又考えました。
 どうかして助けたいと一所懸命に考えましたが、とうとう一つうまいことを考え出しまして、瓶を手に持ったままお台所の方へ走って行きました。
 チエ子さんは台所に行って、サイダーを飲むときの麦わらとコップを一つお母さまから貸し
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