けられ、朱《あけ》に染まって砂の上に昏倒した。この時、隙間《すきま》を発見した甘粕氏は一郎の背後から組み付いて、一気に締め落そうと試みたが、一郎の抵抗力意想外に強く、鍬を投げ棄てて甘粕氏の両腕を掴み、体量二十貫の同氏の全身を縦横上下に水車《みずぐるま》の如く振り廻しつつ引き離そうとするので、流石《さすが》の甘粕氏も必死となり、振り離されまいとのみ努力するうち、呉一郎が過《あやま》って狂女の作った落し穴に片足を踏み込んだ拍子に肩を隙《す》かされて同体に倒れると、身を替《かわ》す暇もなく本館軒下の敷石に肋骨を打ち付けて人事不省に陥った。この時同治療場の入口には甘粕氏の声を聞き付けた数名の男看護人、及小使、医員等が駆け付けおり、中には柔道の心得のある者も在ったが、再び治療場の中央に進み出で、落した鍬を拾い上げた呉一郎が、返り血を浴びたまま顔色蒼白となって四辺《あたり》を睥睨《へいげい》しつつ「俺の事業《しごと》を邪魔するかッ」と叫んだ剣幕に呑まれて一人も入場し得なくなった。その間《かん》に場内の一隅に眼を転じた一郎は顔色|忽《たちま》ち旧《もと》に帰り、ニコニコ然と微笑し初め、血に染まった鍬
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