一面の流血※[#感嘆符三つ、626−10]」は本文より3段階大きな文字]


昨十九日(火曜日)正午頃、事件勃発当時、同科担任教授正木博士は同科教授室に於て午睡しおり、同解放治療場内には平常の通り十名の患者が散在して各自思い思いの狂態を演じつつあったが、その時一隅に畠を耕していた足立儀作(仮名六〇)が午砲と同時に看護婦が昼食を報ずる声を聞いて、使用していた鍬を投げ棄てて病室に去るや、以前から儀作の動静《ようす》を覗《うかが》っていたらしい狂少年、福岡県|早良《さわら》郡|姪《めい》の浜《はま》町一五八六番地農業、呉八代の養子にして同女の甥に当る一郎(二〇)は突然、その鍬を拾い上げて、傍《かたわら》に草を植えていた狂少女、浅田シノ(仮名一七)の後頭部を乱打し、血飛沫《ちしぶき》の中に声も立て得ず絶息せしめた。かくと見た同治療場の監視人で柔道四段の力量を有する甘粕藤太《あまかすとうた》氏は、直ちに急を呼びつつ場内に駆け入ったが、時既に遅く、場内に居った政治狂の某、及《および》、敬神狂の某の二名は、少女シノを救うべく呉一郎に肉迫すると見る間に、前者は横頬を、後者は前額部を呉一郎の鍬の刃先にか
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