が片附けたものか、旧《もと》の通りにキチンと置き並べてあった。今朝《けさ》若林博士と一緒に這入って来て、初めて見た時の並び具合と一分一厘違わず……いじり散らした形跡なぞは微塵《みじん》もないように見えた。その横に座っている赤い達磨《だるま》の灰落しも、今朝最初に見た時の通りの方向を向いて、永遠の欠伸《あくび》を続けているのであった。
 尤《もっと》もその中《うち》でもカンバス張りの厚紙に挟まった「狂人の暗黒時代」のチョンガレ歌や「胎児の夢」の論文なぞいう書類の綴込《つづりこ》みだけは、よく見ると確かに誰かが、ツイこの頃手を触れているらしく、少し横すじかいのX形に重なり合ったまま、投出されているようであるが、もう一つの方の、今日の午前中に正木博士が私の眼の前で塵を払ったに相違ない、青いメリンスの風呂敷包みの上には、やはり初めて見た時の通りに、灰色の細かい埃が一面に被《かぶ》さっていて、久しく人間の手が触れていない事を証拠立てている。そのほか大|卓子《テーブル》の上には、茶を飲んだ形跡《あと》もなければ、物を喰べた痕跡《なごり》もない。念のために、赤い達磨の灰落しを覗いてみると、中には葉巻
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