実験のために、その全生涯と、全霊魂とを犠牲に供して来たのであった。最初から自分一人でこの伝説に興味を持って、千世子を欺して、子供を生まして、絵巻物を提供させたのであった。そうして一切を顧《かえりみ》ずにこの計画を遂行したのであった。
……けれども千世子が、あの絵巻物を提供する時に、あの和歌と、年月日と、子供の名前と生れた処とを、その父親の名前と一緒に奥付の処に書込んで、意味深長な釘を刺している事を正木博士は夢にも気付かずにいたのだ。世にもミジメに深刻な母性愛と、ステキな才智の結晶とも見るべき彼女の悲しい頭の働らきが、そこまで行き届いていようとは露程《つゆほど》も想像し得なかったのだ。大胆な、眩惑的な、そうして飽く迄も天才的なその事業計画の中心に、唯《ただ》一点、致命的な疎漏《そろう》がある事を考え得なかったのだ。……そうして学術のため、人類のためと思って、神も仏も、血も涙も冷笑し蹂《ふ》み躙《にじ》って行きながらも、尚も、あとから追いかけて来る良心の苛責と人情の切なさに、寝ても醒めても悩まされ抜いて来たのだ……死人に心臓を掴まれたまま、跳ね廻って来たのだ。
……これが正木博士の全生涯な
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