がた》い。……結局、私がこの絵巻物から発見したものは、今の上品な香水の匂いだけであった。
 私は今一度、絵巻物に顔を近付けて、ほのかにほのかに何事かを私に話しかけるような香気を繰返し繰返し、腹の底まで吸い込んでみた……が……それは何という香水か知らないが、ホントウに上品な、清浄そのもののような香気と思えるばかりでなく、私の記憶の底の底から何かしらなつかしいような又は遣《や》る瀬《せ》のない夢のような……正直に云えば吸い付きたいような思い出を喚《よ》び起すらしい気持のする匂いであった。云うまでもなくそれは女性のソレらしく思われるが、併しそれが私の昔の恋人か、それとも母か姉か……というような見当がつく程まざまざとした感じではない。……私は念のために立ち上って、入口の扉《ドア》の横から自分の角帽を取って来て、その内側の香《にお》いと、絵巻物の香気とを嗅ぎ較べて見た。けれども私の帽子の内側は、いくら嗅いでも新しい羅紗《らしゃ》と、エナメル皮と、薄い黴《かび》の匂いしかしなかった。私が絵巻物のソレと同じ香水を使っていたという証拠にも参考にもならなかった。
 私は帽子を横に置きながら軽い嘆息をして
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