かされた。而《しか》も、それは決して光線の具合でも何でもなかった。黛夫人の腐れ破れた唇から見え透く歯並の美しいところ、臓腑が瓦斯《ガス》を包んで滑らかに膨れ光っているところまで、細かに注意して見たが、何ともないものは、いくら見ても何ともない。私は人間の神経作用の馬鹿馬鹿しさにスッカリ張り合いが抜けてしまった。
 ……しかし……と思って尚《なお》よく注意してみると、初めの方は紙の地が幾分ボヤケているが、由来記のおしまいの方に近づけば近づく程、紙の表面がスベスベして上光りがしている。これは無理もない話で、最初に筆を執った呉青秀からして、初めの方ほど余計に開いたり捲いたりしたに決っている。又、その後《のち》この絵巻物を開いて見た呉家の先祖代々の者も同様で、最初私がした通りに、初めの完全な姿に近い所ほど念を入れて見たわけで、これは人情からいっても止むを得ないであろう……巻物の裏一面に何かキラキラ光る淡褐色の液体を塗ってある上に指の跡みたような白い丸いものが処々附いているようであるが、あまり滑らかでない紙の下から、粗い布目が不規則に浮き出しているのだから、何の痕跡《あと》だかハッキリと見分け難《
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