た。
 そのあとを振り返って見送っていた小使は、やがてオズオズとこちらに向き直りながら、呆れたように私を見上げた。
「……先生は……どこか、お加減が、お悪いので……」
 私も最後の努力ともいうべき勇気を振い起して、無理に、泣くような笑い声を絞り出した。
「ハハハハハ。何でもないんだよ。今チョット喧嘩をしたんだ。……ツイ先生を憤《おこ》らしちゃったんだ。心配しなくともいいよ。じきに仲直りが出来るんだから……」
 と云ううちに両方の腋の下から、冷たい水滴がバラバラと落ちた。嘘を云うのがこんなにタマラないものとは知らなかった。
「……ヘエイ……左様《さよう》で御座いましたか。それならば安堵《あんど》致しました。はじめてあのようなお顔をばお見上げ申しましたもんじゃけん……ヘイヘイどうぞ御ゆるりと、なさいまっせえ。私一人で誠に行き届きまっせんで……ヘイ。先生はホンニよいお方で御座います。ようお叱りになりますが、まことに御親切なお方で……それに昨日からは又[#「それに昨日からは又」に傍点]、あの解放治療場で大層もない御心配ごとが出来まして[#「あの解放治療場で大層もない御心配ごとが出来まして」に傍
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