…」
 私は突然に非常な力で跳ね起きた。火のような憤激に、全身をわななかせつつ廻転椅子から立上った。正木博士の口をアングリと開いて、呆気《あっけ》に取られている顔を見下しつつ、ギリギリと歯切《はぎし》りをして、唇を震わした。
「……イ……イ……嫌です。……ま……真平《まっぴら》御免です。……ゼゼ……絶対にお断りします」
「……………」
 私は先刻《さっき》から一所懸命に我慢していた、あらゆる不愉快な思いが、口を衝《つ》いて迸《ほとばし》り出るのを止める事が出来なくなった。
「……ボ……僕は精神病者《キチガイ》かも知れません。……痴呆《バカ》かも知れません。けれども自尊心だけは持っています。良心だけは持っているつもりです。……たとい、それが、どんなに美しい人でありましょうとも、僕自身にまだ、誰の恋人だか認める事が出来ないような女と、たかが治療のために一緒になるような事は断じて出来ません。法律上、道徳上、学術上、間違いない事がわかっていても、僕の良心が承知しません。……たといその女の人が、僕を正当の夫と認めて、恋い焦《こが》れているにしてもです。僕自身に、そんな記憶がない限り……そんな記憶
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