正木博士は、そうしている私の前で、軽い咳払いみたようなものを一つして声を繕《つくろ》った……と思うと今度は調子を改めて、極めて荘重な語気になった。私の頭の上から圧付《おしつ》けるように、一句一句を切って云った。
「……唯……ここに一人……君という人間が居る……」
「……………」
「君は吾輩と若林とに選まれた、この事業の後継者である。……否……吾輩や若林は実を云うと、この事業の最後の成績を社会に公表し得べき資格を持った人間でない。ただそこに居る君だけが、その神聖なる使命を担《にな》うべく選まれて、吾々の前に差遣《さしつか》わされた唯一、無上の天使である。自分でその天命の何たるかを知らない……徹底的に何も知らない……ホントウの意味の純真無垢の青年である」
「……………」
「……というのは、ほかでもない。吾輩も若林も、正直正銘のところを告白すると、この事件の真相をコンナ風に偽った形にして、自分達の手で発表したくない。出来得べくは自分達の死後に、然《しか》るべき第三者の手で、真実の形に直して発表してもらいたい……というのが吾々二人の畢生《ひっせい》の願である。純誠無二の学者としての良心から出
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