を相手にナスリ付けるためにも、極めて完全無欠な、用心に用心を重ねた、必要欠くべからざる条件であった」
今までコツコツと床の上を歩きまわっていた正木博士は、こう云い切ると同時に、ピタリと立止まった。そこはちょうど東側の壁にかかっている斎藤博士の肖像と「大正十五年十月十九日」の日附を表わしているカレンダーの前である事が、突伏している私によくわかった。そこで正木博士の足音が急に止まると同時に、言葉もプッツリと絶えて、部屋の中が思いがけない静寂に鎖《とざ》されたために、その足音と声ばかりに耳を澄ましていた私は、正木博士が突然にどこかへ消え失せたように感じられた。
……が……そう思ったままジッと耳を澄ましていたのは、ほんの二三秒の間であったろう。間もなくヒシヒシと解り初めたその静寂の意味の恐ろしかったこと……。
……扨《さて》は……扨《さて》は……と気付く間もなく、私の頭の中に又も、今朝《けさ》からのアラユル疑問が一時に新しく閃《ひら》めき出て来た。思わず両手で頭の毛を掴み締めつつ、次に出て来る正木博士の言葉を、針の尖端のように魘《おび》えつつ待っていた。
……十月十九日の秘密……。
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