話さずに……そんな絵巻物や、物語から来る誘惑を感じさせないようにしてジッと待っていなくてはならないし、一方には、人知れずMの行衛を探し求めて、絵巻物の有無《うむ》を突止めなければならなかった。さもなければ自分の力と工夫で、WとMを突合わせて、何もかも泥を吐かせてしまいたい。この恐ろしい学術の研究慾と、愛慾の葛藤を解消さしてしまいたい。そうして出来る事ならば絵巻物を、自分の手で消滅させておきたい……なぞいうアラユル惨憺たる母性愛を、頭の中に渦巻かせていたに違いないのだ。
……しかし、そのT子の昔の情人は、二人とも二十年来の……否、宿命的の仇讐《あだがたき》同志であった。人情世界の怨敵《おんてき》、学界の怨敵同志であった。そうしてT子|母子《おやこ》を仲に挟んで、お互いにお互いを呪咀《のろ》い合って来た結果、その時はもう二人とも救うべからざる学術の鬼となってしまっていた。……お互いに精神的に噛み殺し合うより外に、生きる道をなくしてしまっている二人であった。……しかもその怨敵を呪咀《のろ》い合う心の、積極と消極の力の限りを合わせて、二人の中《うち》のドチラかの子供であるべきIに、絵巻物の魔
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