と……そうしてその風付きのタマラない程|温柔《おとな》しくて、無邪気であったこと……菩提心《ぼだいしん》とはこれを云うのであろうか……その児の清らかな澄み切った眼付きが、自分の眼の前にチラ付くのを、払っても払っても払い切れなくなったMは、その児が将来、間違いなく投込まれるであろう『キチガイ地獄』の歌を唄って、われと我が恥を大道に晒《さら》しつつ、罪亡ぼしをしてまわった。木魚をたたきたたきその児の後生《ごしょう》を弔《とむら》ってまわった。……それ程にその児は美しく清らかに育っていたのであった。
……Wは、こうしたMの行動を、九州帝国大学、法医学教室の硝子《ガラス》窓越しに見透かして、あの蒼白な顔に人知れず、彼一流の冷笑を浮かめていた事と思う。彼はMが海外に逃げ出した心理を通じて、Mは遅かれ早かれ、必ず日本に帰って来る。Iが思春期に達する以前に、しかもこの九州に帰って来るであろう事を確信していたに違いないのだ。そうしてこの実験に関聯するあらゆる研究を遂《と》げ、一切の準備を整えつつ待っていたに違いないのだ。
……というのはMも実際のところ、頭から爪の先まで学術の奴隷であった。Mがその
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